個別受注生産であれば「何を、幾つ」が決まり、「いつ」は生産能力のやりくりによって決まる。
しばしば、納期に間に合う範囲内で製品仕様が変更されることがある。
しかし、製品の生産計画と部品や材料の調達計画の関係が明確であり、仕様変更への対応策を考えやすい。
これは生産システムを時間的、数量的に捕らえるか、現物に対応して捕らえるかの違いであって、本質にかかわる問題である。
リレーショナル・データベースの採用主流ERPパッケージは、リレーショナル・データベースを前提にしている。
そのことが業務上の多くの問題を招いている。
リレーショナル・データベースは物事を2項関係に分解することを要求する。
しかし、生産活動にまつわる情報対象(オブジェクト)間の関係は多項関係であり、これらを2項関係に分解すると、製品の仕様が多数ある会社では、データベースが極めて複雑な構造になってしまう。
データ構造が複雑になると、仕組みを理解しにくい。
逆に、データ構造を単純化するとデータ処理内容が複雑になる。
ERPパッケージはその良にはまっている。
いずれにしてもリレーショナル・データベースはその上に載るアプリケーションを複雑化し、利用者にとって「誰も中身が分からない」ということが起こってしまう。
実際、汎用機の全盛時代にリレーショナル・データベースが市場に現れたとき、アプリケーションの肥大を招き、ユーザは1、2ランク上位の機種を買わなければならなくなったので、「ミップス・イーター(MIPSeater)」と呼ばれた。
MRPシステムのタイムバケットはリレーショナル・データベースを用いて生産資源の調達を計画する手法に他ならない。
リレーショナル・データベースでは現物に対応するデータを2項関係に分解するので、データ構造が複雑になる。
現物を無視するタイムバケットはリレーショナル・データベースにとって都合がよい。
新しいパッケージには、MRPシステムを前提にしていないものもある。
たとえば、あとでふれるAPSパッケージではEM・Gの主張するTOC(TheoryofConstraints)に沿う、S型の生産管理が可能である。
これらのパッケージはオブジェクト指向/意味データベースを前提としており、「意味モデル(ERモデル)」を表現できるその結果としてタイムバケットにこだわらずに、「かんばん」や「製番方式」など、日本型の巧妙な生産方式を実現できる。
この場合、MRPを前提にしているパッケージよりも、日本企業ではコンテキスト・ギャップが生まれにくいだろう。
企業における既存の認知コンテキストと構造コンテキストの両方を変えることを強いる情報システムは成功しにくい。
認知コンテキストは変えやすいが構造コンテキストは変わりにくい。
また、構造コンテキストは変える理由がないことも多い。
B社がMRPシステムを導入するメリットはない。
でも、構造コンテキストを変えようとする場合は、その正当性・妥当性・不可避性について深い合意形成をつくりながらシステム導入を進めるべきである。
認知コンテキストのギャップERPに関する認知コンテキストをめぐるよくあるギャップを、例示してみよう。
CでSIとは、「システム・インテグレータ」のことで、パッケージ導入のコンサルティングを行う企業のことである。
認知コンテキスト同士のギャップは、相手の情報が増えるにつれて事実認識がはっきりしてきて解決できることが多い。
情報の増加がコンテキストの変更を促すのである。
たとえば、現場の「パッケージで2000年問題が解決できる」という考えは情報不足による誤解であり、「パッケージ以外のアプリケーションやデータの2000年未対応は解決できない」ことに早晩気づくことになるB社の場合もそうであった。
解消しにくいのは、構造コンテキストのギャップである。
構造コンテキストのギャップ次に、片方の当事者の構造コンテキストともう片方の認知コンテキストとが食い違っている例をあげよう。
この場合は、認知コンテキストが変われば、すなわち相手の構造コンテキストを受け入れれば、ギャップは解消する。
たとえば、もともと「部分的導入ではインターフェース作り込みにコストがかかる」構造のパッケージを、会計ユニットだけを導入することにしたとしよう。
この場合は、構造コンテキストは変わらないのだから、部分導入による不便とインターフェース・コストを事前に十分評価しての導入が必要だ。
それが納得できれば、導入に問題はない。
例示したようなギャップがある時は、そのパッケージは、当社にとって不適切なものだと思ったほうがいいだろう。
もちろん、構造コンテキスト自身を変革していく必要性に確信がもてる場合は別である。
たとえば、パッケージ導入を機会に、「月末伝票処理の商習慣」を「発生時点処理」に変えることに取り組むなどがこれに当たる。
構造コンテキストと認知コンテキストとのギャップ機能アップやカスタマイゼーションはSIにまかせればよいパッケージと導入企業のコンテキスト・ギャップは、Eのように分類できる。
なお、ギャップの対比表現は、前者が導入企業で後者がパッケージを示している。
パターン1:上記の例示の際にも述べたように、パターン1の「認知コンテキストー認知コンテキスト」(例:カスタマイズ規模の見込み違い)はもっとも対処しやすい。
このギャップは、SIベンダーとの打合せ不足を意味しており、コストや使い勝手で妥協できるか慎重な事前検討が必要である。
パターン2:構造コンテキストー認知コンテキストのギャップ(例:カスタマイズを自分の仕事にしておきたい。
SIベンダーとその範囲と可能性を理解する必要がある。
導入企業の対立)このギャップは、導入企業の事情を理解しようとしない。
SIベンダーの不親切であり、SIベンダーに導入企業について、より深く理解し、より多くの情報を提供する義務があるといえる「契約しなければ機能一覧のマニュアルを出せない」などと言っている一部のSIベンダーは論外である。
導入企業側が、SIベンダーに自社事情の理解を求めるべきケース。
パターン3:認知コンテキストー構造コンテキストのギャップ(例:パッケージが前提にしている。
IT技術と現場の最新IT技術に対する期待にギャップがある。
このギャップは、導入企業の勉強不足である。
たとえば、リレーショナル・データベースを前提としているパッケージは、どの企業にも向いているわけではないことは前述した。
導入企業が、パッケージのIT技術上の構造コンテキストを前提に、自社の業務改革が可能かをよく事前検討する必要がある。
パターン4:構造コンテキストー構造コンテキストのギャップ(例:導入企業の生産システムとパッケージが前提にしている。
MRPとが合わない)このギャップは、企業の仕事の前提とパッケージの前提とが異なるのだから、基本的にはパッケージの導入をあきらめるべきケースである。
ただし、構造コンテキストを変革する必要性を十分確信できる場合は別である。
ことは前述したとおりだ。
ERPパッケージ変革の方向づけここで述べてきたことは、ERPパッケージの否定のように聞こえたかもしれない。
しかし、その理解は2つの意味で間違いである。
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